年収の壁・支援強化パッケージ

1.年収の壁・支援強化パッケージ

年収の壁配偶者の被扶養者として社会保険料の負担がない層のうち約4割が就労していますが、その中には、一定以上の収入(106万円※1または130万円※2)となった場合の、社会保険料負担の発生や収入要件のある企業の配偶者手当がもらえなくなることによる手取り収入の減少を理由として、その範囲内で収入が収まるよう働き方を調節している労働者が一定数存在しています。

厚生労働省は、人手不足に対応するためにも、労働者本人の希望に応じて年収の壁を意識せずに働くことの環境づくりを後押しするため、当面の対応として、必要な費用を補助するなどの支援強化パッケージを決定し、制度見直しに取り組むこととしている。

※1 年収106万円の壁
社会保険の特定適用事業所(厚生年金被保険者の総数が101人以上の事業所。令和6年10月からは51人以上。)における短時間労働者(週の所定労働時間が20時間以上かつ通常の労働者の4分の3未満)の社会保険の加入要件のひとつが「所定内賃金が月額88,000円以上」であることから、特定適用事業所における社会保険加入ラインとして挙げられている。

※2 年収130万円の壁
健康保険の被扶養者の収入要件が、年間収入130万円未満であるため、配偶者の健康保険の扶養に入れるラインとして挙げられている。

 

2.年収の壁・支援強化パッケージの概要

(1)106万円の壁への対応

・キャリアアップ助成金のコースの新設

キャリアアップ助成金短時間労働者が新たに被用者保険の適用となる際に、労働者の収入を増加させる取り組みを行った事業主に対して、複数年(最大3年)で計画的に行うケースを含めて、一定期間助成(労働者1人あたり最大50万円)が行われます。

助成対象となる労働者の収入を増加させる取り組みには、賃上げや所定労働時間の延長のほか、被用者保険の保険料負担に伴う労働者の手取り収入の減少分に相当する手当(社会保険適用促進手当)の支給も含めることとされています。

・社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外

短時間労働者への被用者保険の適用を促進する観点から、被用者保険が適用されていなかった労働者に対し、給与・賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給することができるとされています。

被用者保険の適用に係る労使双方の保険料負担を軽減する観点から、社会保険適用促進手当については、最大2年間、新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限として、当該労働者の標準報酬月額・標準賞与額の算定から除外されることになります。

 

(2)130万円の壁への対応

・事業主の証明による被扶養者認定の円滑化

被用者保険の被扶養者の認定にあたっては、認定対象者の年間収入が130万円未満であるとこと等が要件とされていますが、一時的に収入が増加し、直近の収入に基づく年収の見込みが130万円以上となる場合においても、直ちに被扶養者認定を取り消すのではなく、総合的に将来収入の見込みを判断することとされています。

被扶養者の認定においては、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等を確認していますが、短時間労働者である被扶養者について、一時的に130万円以上となる場合には、これらに加えて、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで、迅速な被扶養者認定が可能となります。

なお、あくまでも「一時的な事情」として認定を行うことから、同一の者について原則として連続2回までが上限とされます。

 

(3)配偶者手当への対応

・企業の配偶者手当の見直し促進

年収の壁収入要件がある配偶者手当の存在が、社会保障制度とともに就業調整の要因となっており、配偶者手当の見直しは、現在支給されている人にとっては不利益変更となりうるため、労働契約法や判例等に留意した対応が必要であり、配偶者手当の見直しの必要性・メリット・手順等について、企業等への理解を深めることが必要となります。

そのため、令和6年春の賃金見直しに向けた労使の話し合いの中で配偶者手当の見直しが議論されるよう、見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料が作成・公表されたり、収入要件のある配偶者手当が就業調整の一因となっていることや配偶者手当を支給している企業が減少傾向にあること等を各地域で開催するセミナーで説明するとともに、中小企業団体等を通じて周知することが予定されています。

 

3.まとめ

各対応策については、本パッケージに基づいて、今後、所要の手続きを経た上で、関係者と連携し、着実に進めていくこととされているので、具体的な手続き等の詳細については今後確認が必要となります。

 

“いわゆる「年収の壁」への対応”.厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html

“「年収の壁」への当面の対応策”.厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/12501000/001150695.pdf