年金制度改正その3
年金制度改正法について
今回は、確定拠出年金法等の改正についてみていきたいと思います。
1.確定拠出年金(DC)の加入年齢の引き上げ(令和4年5月施行)
1)企業型確定拠出年金(企業型DC)
現在は、企業が従業員のために実施する退職給付制度である企業型DCについては、厚生年金被保険者のうち、65歳未満の者(60歳以降は60歳前と同一事業所で継続して使用される者に限る)を加入者とすることができます。
一方、同じく退職給付制度である確定給付企業年金(DB)については、このような年齢や同一事業所の要件はなく、厚生年金被保険者(70歳未満)であれば加入者とすることができます。
そのため、企業型DCについて、企業の高齢者雇用の状況に応じたより柔軟な制度運営を可能とするとともに、DBとの整合性を図るため、厚生年金被保険者(70歳未満)であれば加入者とすることができるようになります。
2)個人型確定拠出年金(個人型DC(iDeCo))
老後のための資産形成を支援する個人型確定拠出年金(個人型DC(iDeCo))については、国民年金第1号被保険者と企業年金のない国民年金第2号被保険者のために、60歳まで加入して掛金を拠出でき、60歳以上で受給できるという上乗せ年金の制度としてスタートしましたが、平成29年1月に、企業年金のある国民年金第2号被保険者と国民年金第3号被保険者まで加入可能範囲が拡大され、被保険者種別にかかわらず国民年金被保険者を包括する制度となりました。
現在は、国民年金被保険者の資格を有していることに加えて、60歳未満という要件があるため、国民年金第2号被保険者や国民年金の任意加入者であって60歳以上の者はiDeCoに加入できませんが、一方、同じく上乗せ年金である国民年金基金については、このような要件がなく、国民年金被保険者(第1号被保険者・任意加入被保険者)であれば加入可能となっています。
そのため、iDeCoについて、高齢期の就労が拡大していることを踏まえ、国民年金被保険者であれば加入可能となります。
2.受給開始時期等の選択肢の拡大
1)確定拠出年金(企業型DC・個人型DC(iDeCo))(令和4年4月施行)
DCについては、現行は60歳から70歳の間で各個人において受給開始時期を選択することができますが、公的年金の受給開始時期の選択肢の拡大に併せて、上限年齢が75歳に引き上げられます。
2)確定給付企業年金(DB)(公布日施行(令和2年6月5日))
DBについては、一般的な定年年齢を踏まえて、現行は60歳から65歳の間で労使合意に基づく規約において支給開始時期を設定することができますが、企業の高齢者雇用の状況に応じたより柔軟な制度運営を可能とするため、支給開始時期の設定可能な範囲が70歳まで拡大されます。
3.確定拠出年金の制度面・手続面の改善
1)中小企業向け制度(簡易型DC・iDeCoプラス)の対象範囲の拡大(公布日から6月を超えない範囲で政令で定める日に施行)
中小企業における企業年金の実施率は低下傾向にあることから、中小企業向けに設立手続を簡素化した「簡易型DC」や、企業年金の実施が困難な中小企業がiDeCoに加入する従業員の掛金に追加で事業主掛金を拠出することができる「中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)」について、制度を実施可能な従業員規模が現行の100人以下から300人以下に拡大されます。
2)企業型DC加入者の個人型DC(iDeCo)加入の要件緩和(令和4年10月施行)
企業型DC加入者のうちiDeCo(月額2.0万円以内)に加入できるのは、拠出限度額(DC全体で月額5.5万円以内)の管理を簡便に行うため、現行はiDeCoの加入を認める労使合意に基づく規約の定めがあって、事業主掛金の上限を月額5.5万円から3.5万円に引き下げた企業の従業員に限られているため、ほとんど活用されていない現状があります。
そのため、掛金の合算管理の仕組みを構築することで、規約の定めや事業主掛金の上限の引き下げがなくても、全体の拠出限度額から事業主掛金を控除した残余の範囲内で、iDeCo(月額2.0万円以内)に加入できるように改善が図られます。
3)企業型DCの規約変更(公布日から6月を超えない範囲において政令で定める日に施行)
規約変更の手続について、DBでは軽微な変更の一部は厚生労働大臣への届出が不要ですが、企業型DCでは軽微な変更でも全て届出が必要になっているため、企業型DCにおいても、DBと同様、軽微な変更の一部は届出が不要となります。 ※資産管理機関の名称及び住所の変更等
4)企業型DC加入者のマッチング拠出とiDeCo加入の選択(令和4年10月施行)
事業主がマッチング拠出を導入している場合、現行は当該企業の企業型DC加入者はマッチング拠出しか選択肢はなく、iDeCo加入を選択することはできないが、規約の定めや事業主掛金の上限の引き下げがなくても、企業型DC加入者がiDeCoに加入できるように改善が図られることに併せて、マッチング拠出を導入している企業の企業型DC加入者は、マッチング拠出かiDeCo加入かを加入者ごとに選択できるようになります。
5)個人型DC(iDeCo)の脱退一時金の受給要件の見直し(令和4年5月施行)
外国籍人材が帰国する際には、一定の要件を満たせば公的年金の脱退一時金を受給できますが、一方iDeCoについては、国民年金の保険料免除者であることが脱退一時金の受給要件となっているため、帰国時には日本の国民年金制度から外れてしまい、保険料免除者に該当することはなく、脱退一時金を受給することができません。
そのため、外国籍人材が帰国する際に、通算の掛金拠出期間が短いこと又は資産額が少額であること等の一定の要件を満たす場合には、公的年金と同様に脱退一時金が受給できるようになります。
6)制度間の年金資金の移換(ポータビリティ)(令和4年5月施行)
制度間のポータビリティとは、個人の転職等の際に、制度間の資産移換を可能とするもので、より多くのポータビリティを拡充することで、個々人の選択肢が広がるなど、継続的な老後の所得確保向けた取り組みを行いやすい環境となることから、平成16年と平成28年の法改正で資産移換が可能となってきました。
制度間のポータビリティは順次拡大されてきましたが、一部に不十分な点が残ることから、引き続き、移換手続の改善が図られ、具体的には、終了したDBからiDeCoへの年金資産の移換と、加入者の退職等に伴う企業型DCから通算企業年金への年金資産の移換を可能とします。
4.まとめ
今までは、は、会社が同時加入を認めて会社の制度を縮小した場合のみ、同時加入することができましたが、今回の改正により、企業型DCの拠出上限を超えなければ、同時加入することができるようになりました。
また、加入年齢の引き上げや、受給開始時期の選択肢の拡大など、高齢者の就労拡大に対応するような形の改正がなされています。
確定拠出年金は、掛金相当額や運用益について、非課税となる税制優遇措置がとられているため、高齢期への備えとして、公的年金の受給や、自身の働き方を考えたうえで、制度の活用を考えてみるのもいいかもしれません。